おにぎり握るように愛してくれない?

キラキラした男の子達のこと

違う未来を選択すればいくらだって幸せになれる

北山くんの主演舞台「あんちゃん」を見てきました。

以下、ネタバレはほんのちょびっとで主観にまみれた感想を書き連ねております。

 

 

何度も性懲りもなく思うことだけれど、今回の舞台を見ても思ったことがある。北山くんがアイドルでいてくれてよかった、と。

北山くんはきっと、自分のためだけにアイドルをやっているわけではない。

では誰のためのなのか?それはきっとメンバーのためでもあるだろうし、母子家庭で育ててくれたお母さんのためなのかもしれない。ねっとりと応援し続けるファンのためでもあるだろう。

北山くんは、周囲の人間が求める「北山宏光」を誠実に表現し続ける。

そこに自分のため、という項目は存在していないのだと思う。我を消してアイドルという生き方を全うしている、なんて雰囲気は北山くんからは一切感じないし、むしろアイドルという生き方の一番の高みを一生懸命に目指しているようにしか見えない。もっと自分のやりたいように生きていいのに、とこちらがもどかしく思ってしまうくらいに、北山くんは真面目にアイドルを全うしているし、それを苦とも思っていないような節がある。

 

今回の北山くんの役どころである凌も、アイドルの北山くんと同じように自分のためだけには生きていけない男だった。家を出て行った父と工事現場で再会するシーンで、凌は、ある思いを吐露する。父親が家から出て行った凌のことを腫れ物のように扱うクラスメイトたちに嫌気がさし、「転校したい」と何度もつぶやくのだ。女手ひとつでけなげに家族を守ろうとする母親には言えなかった気持ち。父親は「そんなに嫌ならそんな学校やめればいい、父さんのところに来ればいい」と凌に対して違う未来を提案する。凌はその未来を選択しようとするのだが、母親に報告したときに泣きつかれて止められてしまうのだ。「一緒に生きてほしい」という母親の涙ながらの悲痛な思いを、幼い凌は受け止める。自分の気持ちを殺して、母親の思いを優先したのだ。それとは対照的に、凌の姉たちは母親の思いではなく、自分の心に従って生きていく。母親の呪縛から抜け出して、家を早々に出て行った。凌だけは、母親の気持ちをずっと受け止めていた。「自らの夢を追いかけるため」という表向きの理由を盾にして、ずっと母に寄り添っていたのだ。母親も、きっと凌のことを縛りたかったわけでないだろう。それでも凌は母親の求める息子である未来を選択したのだ。

24年ぶりに帰ってきた父親と対峙したとき、凌は子供たちのなかで唯一父のことを理解しようとした。姉二人は自分の心に正直に、憎い父親を排除しようとするのだが、凌だけは「帰ってきたのには何か事情があるんだよ」と擁護するような口ぶりだった。それはただ単に父親が好きだったからというだけではなく、凌の根本に流れる自分よりも周囲の人を優先してしまうやさしさから来るものだと思う。どうして、なんで捨てたんだ!と詰め寄りたい自分の気持ちよりも、許してもらおうとは思っていないのにわざわざ家族のもとへ帰ってきた父親の心に寄り添おうとしたのだ。

ラスト、凌が家族に自分の映画監督になる夢を暴露し、今から父親のドキュメンタリーをとる!とビデオカメラを家族に向けるシーン。ばらばらになってしまった家族を今度こそ、と必死につなぎとめようとする凌の姿はまさしく一家の「あんちゃん」だった。母親や姉二人、父親のなかにあるであろう家族を想うそれぞれの気持ちに、凌はまた真摯に向き合ったのだ。「あんちゃん」は弟ができるはずだった凌に対して両親が提案した呼び名であったが、この舞台の最後には、凌が、本当の意味での「あんちゃん」として、家族全体をやさしく包んでいるように感じた。

そしてこの凌は、まさしくアイドルとして生きる北山くんそのものなのではないかと思ったのだ。

アイドルの北山くんは、他人(自分以外のひと)のために生きているひとだと思う。他人のために、他人が望む「北山宏光」をきちんと理解して与えてくれる。もはや他人の気持ちに寄り添うことで「北山宏光」が構築されているのかもしれない。そしてそれは同時に北山くん自身がそうありたいと願った「北山宏光」でもある。他人の思いを自分の運命として受け止めて「北山宏光」というアイドルを作り上げる北山くんの姿は、一生懸命で、尊い。これから先も、ずっと、みんなの「あんちゃん」でいてくれるのだろうと思った。

 

そして、最後に表題について。

作中で担任の先生が、父親がいなくなったショックで引きこもりになってしまった凌に投げかける言葉だ。凌はこの言葉に「違う未来を選んで、不幸になったらどうするの?」と疑問を口にする。凌自身は父親と暮らすという「違う未来」を、母親に止められて選択しなかった。その先に幸せが待っていたのかなんて誰にも分からない。ただ現状よりも良くなる可能性を秘めていたのは確かだろう。しかし、「違う未来」を選択しなかった凌は不幸だったのだろうか?きっとそうではないはずだ。母親に寄り添い、語ることはなくても自分の夢を見つけ、追いかけることができた。それは確かな幸せとしてカウントされるべき事柄だ。

北山くんにとっての「違う未来」はなんだったのだろう。アイドルという生き方を選んだ北山くんは、今幸せだろうか、と考える。幸せになれるチャンスはどの選択肢にだって平等に広がっているはずだけど、アイドルという選択肢はほかのどれよりも茨の道であったに違いない。「違う未来」のほうが幸せだったのではないだろうか、と考えてしまう。それでも北山くんはアイドルとしての歩みを止めない。今が幸せかどうか、なんて本人にしか分からないけれど、北山くんがいろんなステージで見せてくれる満面の笑顔を、幸せの表れとして受け取っておきたいと思うのはおこがましいだろうか。

どうか北山くんが幸せでありますように。あわよくばアイドルとしての北山くんも、幸せでありますように。

 

最後に、舞台「あんちゃん」千秋楽のその日まで、毎日成功を祈っています。

がんばれみっくん座長!!